はじめに
会社が志望動機を聞く理由は、応募者がどれほど本気で働きたいと思っているのか、事前に十分会社のことを調べているのか、会社や商品またはサービスにどれほど興味を持っているのかを知るためです。志望動機は人それぞれ違うわけですから、非常識だと思われない理由であれば何でもいいわけですが、大事なのは他社ではなく、その会社で本気で働きたいと思っていることが伝わることです。
新人を雇ってからその人が一人前に働けるようになるまでは3年ほどかかると言われますが、その期間は会社にとってはいわば投資期間になります。その期間が終わらないうちにその人が辞めてしまうなら会社にとっては損失です。ですから、会社としてはすぐに辞めない人を見極める必要があります。
この会社でどうしても働きたいという説得力のある理由を持っている人なら長く働く可能性が高い人と判断され内定にもつながるでしょう。また、能力的に差のない人たちの中から選ぶなら、ぜひこの会社で働きたいという納得できる理由を持っている人が選ばれるのは自然なことです。ここではその理由の見つけ方と伝え方について見ていきます。
オンリーワンであることの理由の見つけ方
自分は他社ではなくこの会社で働きたいという理由を見つけるには、まず、自分が成し遂げたいことは何か、将来の夢は何かという点から見極める必要があります。ところが中には、「この業界の仕事に興味があるけど特に成し遂げたいということはない」という人もいるかもしれません。その時に役立つのが、自分が興味を持つ業界や会社に内定した人たちのエントリーシートを読んで分析してみることです。
内定を得た人のエントリーシートには、自分が成し遂げたいこと、なぜそれを成し遂げたいのか、それを達成するためになぜその会社でなければならないのかといった内容が含められています。なぜそれを成し遂げたいのかという部分では、自分の過去の経験と関連付けて語っていますので、読みながら自分の過去を振り返って、自分の場合はどうだろうかと考えることができます。多くの人の志望動機を読んでいくうちに、自分の考えが少しずつ形作られていき、自分がしたいことも見えてきます。
自分が成し遂げたいことがはっきりしたら、それを成し遂げるためにはどの会社が適切かということを考えます。これは自分の過去の経験とも関係してくるでしょう。たとえば、外国に留学した経験があって、日本の調味料がなかなか手に入らなくて残念だったとか、どこに行っても気軽に和食を作れるようになればいいのにと思ったことがある人なら、食品業界、それも和食に使用する調味料の製造をしていて、グローバルな事業展開をしている会社で働きたいと思うかもしれません。
一方、料理が好きでしかも健康志向が強く、オーガニック調味料に興味がある場合なら、選択する会社は異なることでしょう。こうした作業を行うことによって自分にとってなぜこの会社でないといけないのかという理由を見出すことができます。
オンリーワンであることの理由を見出すには企業研究が不可欠ですが、ホームページや会社説明会、OB・OG訪問以外に、会社が公開しているIR資料を見るとその企業の財務・経営状況を知ることができ、自分が成し遂げようとすることがかなう可能性がある会社かを見極めることができます。IR資料の中でも特に重要なのは、「有価証券報告書」と「決算説明会資料」です。これによってその企業の「課題」と「解決策」を分析することができます。
また、売上比率を事業別に示した「セグメント」もあるので、その会社がどんな事業に特に力を入れているかがわかります。力を入れている事業がその会社のメイン事業ということになりますから、自分の成し遂げたいことがその事業と関係があるなら、オンリーワンの会社になり得ます。
オンリーワンであることの伝え方
他社ではなくこの会社でぜひとも働きたいということを伝えるには、自分が成し遂げたいことだけではなく、なぜそれがしたいのかを伝える必要があります。成し遂げたいことを言うだけなら誰にでもできることで説得力がありませんが、そのように動かした具体的な経験があると、成し遂げたいことに対する本気度がかなり伝わります。
たとえば、「食品を通して多くの人の健康に資する仕事がしたい」という志望動機なら、なぜそうしたいのかを自分の経験に基づいて伝えます。経験そのものはドラマチックなものである必要はなく、家庭やアルバイトや課外活動の中で起きたことでも問題ありません。重要なのはその経験が現在の自分の会社選びの大きな動機付けになっているということです。
それから、その経験に沿った流れで、同業者の中からその会社を選んだ理由を説明します。理由はその会社独自の特徴と合致している必要があります。会社の特徴には、業界の中でリーディングカンパニーのポジションにある、あらゆる過程で顧客満足度を徹底的に追及している、グローバルな視点で事業を展開しているなどいろいろあります。
その特徴が自分がその会社を選んだ理由と合っていないと「うちではなく他の会社のほうがいいのではないか」と思われてしまいます。ですから、その意味でもその会社の特徴や強みについてよく知っていることは重要になります。
ただ、実際問題として、同業者だとかなり共通する点もあるため、どうしてもこの会社でなければならないという説明がしにくい場合もあります。その際には、会社の理念や社風という角度から伝えることができます。企業研究をする過程で会社説明会に参加し、OB・OG訪問を行って「貴社の~な社風が自分の個性に合っていると感じた」、「貴社の理念が現場に浸透しているのを感じ、このような職場で働きたいと思った」と言うこともできます。
ただし、「貴社の社風が好きなので」といった具体性のない表現はマイナスの印象を与えます。また、OB・OG訪問をせずにただ、会社のホームページの説明だけを見て社風や理念について語ると、「研究不足で他に良さがわからないから、とりあえずそういう理由にしているんだろう」と見抜かれてしまいます。ですから会社の理念や社風に言及するコメントは、十分な企業研究に裏打ちされたものであるべきです。
まとめ
他社ではなくこの会社で働きたいというメッセージがうまく伝えるためには、まず自分が成し遂げたいことについてはっきり知る必要があります。そしてそれを目標にするきっかけとなった経験について考え、その思いを実現するためにその会社が理想的であることを、会社の特徴を踏まえつつ伝える必要があります。その上で、もし、採用されたらどんな面で会社に貢献したいか、どんな仕事をしたいかという点を話すなら説得力があります。
志望理由なんて重要じゃないと考えてあまり準備しない人もいますが、面接官が志望理由を聞く時は、会社に対する志望度の高さだけでなく、論理的な思考ができる人なのか、人柄はどうかといったことも見ています。
また、この会社でどんな仕事をしたいと思っているのかも見極めたいと思っています。ですから応募する側としては、会社側が志望理由から読み解きたいと思っている点を理解した上で準備する必要があります。経営者の立場に立ってみてどんな志望動機を述べる人を雇いたいと思うかを考えてみましょう。